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神戸地方裁判所 平成6年(わ)760号 判決

本籍

兵庫県加古郡播磨町野添一七七四番地の一

住居

兵庫県加古川市野口町二屋一二九番地の八

日本料理店経営

高橋賢

昭和二五年九月三日生

右の者に対する公務執行妨害、傷害被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤洋志出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成六年五月一六日午前一一時二〇分ころ、自己が経営する兵庫県加古川市野口町二屋一二九番地の三日本料理店「石庭」において、加古川税務署個人課税第二部門に勤務していた大蔵事務官中秀之(当時三六歳)及び同山根憲司(当時二七歳)から、被告人の平成五年分の確定申告に対する税務調査を受けた際、右中及び山根から高額な壺は経費として計上できない旨指摘されたことに立腹し、同店内においていた壺を破損したうえ、その破片を右中及び山根にむかって投げつけ、右山根の右肘部に命中させる暴行を加え、もって、右中らの職務の執行を妨害するとともに、右暴行により、右山根に対し、加療約二週間を要する右肘部擦過挫創等の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目-番号は検察官請求証拠番号による)

一  被告人の検察官及び司法警察員(一五)に対する各供述調書

一  中秀之及び山根憲司の検察官に対する各供述調書

一  司法警察員作成の各写真撮影報告書(二通)及び各実況見分調書(二通)

一  医師魚住光洋作成の診断書

(法令の適用)

被告人の判示所為中、中秀之及び山根憲司に対する各公務執行妨害の点はいずれも刑法九五条一項に、傷害の点は同法二〇四条にそれぞれ該当するところ、右は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い傷害罪について定めた懲役刑で処断することとし、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件犯行態様は場合によって重大な結果を惹起しかねない危険なもので、被害者に与えた恐怖感も少なくなく、動機も税務署員の正当な指摘に立腹したという理由だけで斟酌するに価せず、また、右犯行により税務行政の円滑な遂行を妨害したという結果も看過できないことなどの諸事情に鑑みると、被告人の刑事責任を軽視することはできない。

しかしながら、本件犯行直後に負傷した職員に対して謝罪していること、治療費の負担についても誠意を示していること、本件を機会に税理士を依頼して修正申告をなしていること、被告人には交通事故の業務上過失傷害による罰金前科以外にこれといった前科前歴のないこと、その他諸般の事情を考慮し、主文掲記の刑を量定のうえ、その刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部功)

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